【特集】石巻で探究する大人たち |お茶のあさひ園 日野朱夏さん
- 一般財団法人まちと人と
- 3月1日
- 読了時間: 5分
地元のお茶を使った「紅茶」を石巻から発信

石巻市旭町の「お茶のあさひ園」の日野朱夏さんは、地元の「桃生茶(ものうちゃ)」というお茶を作った国産紅茶「kitaha(キタハ)」の商品企画・開発を担当されています。
「いつかは石巻のために」という思いを持ち続け、東京の短大に進学後、石巻にUターンした日野さん。「kitaha」の商品開発にかける思いを伺いました。
高校卒業直前の震災。「いつかは石巻に」
私は石巻市で生まれ育ちました。実家は「お茶のあさひ園」というお茶屋さんで、幼いころからお茶に親しんできました。
東日本大震災の時は高校3年生の3月。高校の卒業式を終えて、4月からは東京の短期大学に進学することが決まっていました。石巻が大きな被害を受け、多くの方が被災した中で、「東京に行っていいのか」と悩みましたが、「東京で勉強して、いつかは学んだことを地元に返したい」と強く思いました。石巻から東京に向かう時、キャリーバッグを引きながら道を歩いていると、地元の方々が「頑張ってきなさいよ」と声をかけてくださったことは今でも心に残っています。
短大を卒業後、「いつかは実家のお茶屋さんの仕事を継ぎたい」と思いながら、4年間東京で働きました。そして24歳の時に石巻に戻り実家の仕事に関わることになりました。そして、私が関わることになったのが石巻の「桃生茶(ものうちゃ)」を使った紅茶の商品化でした。「桃生茶」は江戸時代に伊達政宗のすすめで栽培が始まったお茶で、石巻の内陸にある桃生地区で現在は1軒のみの農家さんが生産しています。

父親は東日本大震災後に次世代に何かを残したいと桃生茶を使った国産紅茶の開発に取り組んでいました。私が石巻に戻った時には茶葉はできており、「kitaha(キタハ)」という商品名も決まっていました。「kitaha」には「北の大地の葉」という意味が込められています。
石巻の紅茶「kitaha」の可能性を広げる
次は、茶葉を作ったお菓子作りをすることになり、私はそこからプロジェクトに関わりました。まだ20代半ばの私がデザイナーさんや商品の開発を考えるフードコーディネーターさんといったプロの方々と一緒にお菓子作りを考えることになりました。しかし私には商品を開発した経験がなく、月に2回くらいの会議の場で全く発言ができませんでした。
そんな中、最後の会議で、私がぼそっと「このお菓子おいしいです」ということを話した時がありました。その後、フードコーディネーターさんが「いつも静かにしていたけどあなたはもっと発言もできる人だから、もっと殻を破った方がいいよ」という長文のメールをくださいました。「こんなに見てくれている人がいるのに、私は何も学ぼうとせずに会議に参加していた」と感じ、そこから自分の意識が変わりました。

「kitaha」の試飲会をしに商業施設の店頭などに立ち、桃生茶や紅茶に関する知識を深めていくと、だんだん商品のことが好きになっていきました。そして2019年に「自分にやらせてほしい」と父親にお願いし、今は「kitaha」の商品企画を任せてもらっています。
そして、自分の手で作ったのが「kitaha 纏(まとい)」という商品です。「kitaha」と何かを組み合わせたらより可能性が広がるのではないかというアイデアから生まれました。組み合わせるものとして最初に浮かんだのが、ハーブティーとしても使われている「ハーブ」でした。
宮城県蔵王町でハーブを生産している「ざおうハーブ」さんにご協力いただき、「kitaha」の茶葉とハーブを混ぜた茶葉をティーバッグに入れ、かわいらしい缶のパッケージに入れて販売しています。茶葉の分量については何度も自分で調整を繰り返しました。宮城県の山元町特産のイチゴを乾燥させて紅茶に浮かべた商品も開発しました。宮城県の色々な地域の生産者さんとコラボをすることで、「地域×地域」で石巻ともう1つの地域をPRしていきたいと考えています。
石巻発「kitaha」を世界へ
「kitaha」を開発してから5年が経ちましたが、おみやげ品のコンテストで受賞をしたり、駅や空港など宮城県各地で販売されたりするようになりました。また、2019年には大阪で開かれた「G20」のサミットで大統領をはじめ各国の首脳にふるまわれました。著名なソムリエの方に味や香りを評価していただきとても嬉しかったです。
また、これまでは、静岡県の工場に紅茶の製造をお願いしていましたが、2022年に石巻に自社工場を建設し、石巻で紅茶の製造をスタートしました。地元・石巻から商品を発信し、石巻の方々を元気にすることを大切にしているので工場の建設はとても喜ばしいことでした。
工場の名前は「kitahanone」。東北のお茶文化の「根っこ」になりたいという思いで名づけました。東北各地でお茶を作っている方々とつながりながら、東北にお茶文化を広げていきたいと考えています。将来的にはウーロン茶の製造にも挑戦したいです。


石巻に工場ができたので、例えば石巻の子どもたちが小学6年生の夏に「茶摘み」をして、そのお茶の葉を使って私たちが3か月~半年かけて紅茶を作り、卒業式の時に紅茶をプレゼントする、そんなことができればいいなと考えています。
それは若い世代がお茶に親しみ、石巻を好きになるきっかけになると感じています。自分自身も「石巻川開き祭り」という地元の祭りが楽しくて石巻のことが好きになりました。楽しいものが1つでもあれば、石巻にいつか戻りたいというきっかけになると考えています。
高校生へのメッセージ
私は高校生の時、友人にも家族にもうまく自分を表現することができず、殻に閉じこもったこともありました。みなさんも、つらいと思う出来事もあるかもしれません。そんな私が今思うことは、嫌なことも、嬉しいことも、悲しいことも、楽しいことも全て無駄じゃなかったなということです。
つらい時は信頼できる人たちに全力で頼っていいと思います。誰かしら必ず助けてくれます。これは高校生の特権です。高校生という素敵な時期にたくさんのことに挑戦し多くのことを知ることが、きっと素敵な未来につながるのだと私は信じています。1度しかない高校生活をぜひ楽しんでください。

※この記事は高校生向け探究教材「GATEWAY」の記事を一部編集し掲載しています。
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