【特集】石巻で探究する大人たち | 一般社団法人日本カーシェアリング協会 吉澤武彦さん
- 一般財団法人まちと人と
- 3月1日
- 読了時間: 5分
「カーシェアリング」で作るつながり

石巻市駅前北通り1丁目の一般社団法人日本カーシェアリング協会の吉澤武彦さんは、2011年の東日本大震災をきっかけに石巻に移り住み、「車」を通じた支え合いの仕組みを作ってきました。石巻の経験を「全国へ」発信しようと取り組んできた、吉澤さんにお話を伺いました。
人生の師匠との出会い
私は兵庫県姫路市の出身で、ずっと関西地方で暮らしてきました。
災害支援に関わるようになったきっかけは、1人の人生の師匠との出会いです。2007年に友達が主催したイベントで、「山田和尚さん(バウさん)」というすごい方がいるということを耳にしたんです。1995年の阪神・淡路大震災の時に「神戸元気村」という団体を立ち上げ全国から集まったボランティアたちを束ねて活動していた。オゾン層を保護するため、全国の自治体1000か所以上を1人で回って、フロンガスを回収する仕組みを整えた…そんなお話を聞いたときに衝撃を受けました。

イベントから家に帰った私は、バウさんのホームページをにあったメールアドレスに連絡してみました。
すると、バウさんが当時住んでいた埼玉から大阪まで会いに来てくれたのです。バウさんの話をもっと多くの人に聞いてもらうため、講演会を主催し、バウさんと朝まで語り合いました。そこから、バウさんと一緒に活動するようになりました。
バウさんはよく私に「コマになるな、タイヤになれ」と話していました。コマは漢字で書くと「独楽」、「ひとりで楽しむ」と書きます。くるくると1人で回っていても何も変わらない。タイヤのように周囲を巻き込め、風景も場所も変えながら動けという教えでした。
その教えを行動に移す時は、突然やってきました。2011年、東日本大震災です。震災直後、バウさんから、「被災地に車を持っていく活動をしたらどうか」というアドバイスをもらいました。当時、津波で多くの車が流され、被災者の方は「生活の足」を失っていました。家を流され、車を買うことも難しい状況でした。私は被災規模が大きかったところであれば車のニーズも高いだろうと考え、石巻市に向かうことにしました。バウさんの仲間たちが石巻で活動していたつながりもありました。
車を通じて、人と人がつながる仕組みをつくる
石巻市では約6万台の車が被害を受けたといわれています。企業を回り、寄付してくれる車を探しました。1台目の寄付が決まるまでには1か月ほどかかりました。被災者の方に車を贈り、「ありがとう」と言われることも嬉しかったのですが、もっと価値を生み出す方法はないか、考えるようにもなりました
「車から何を生みだせるだろうか」。当時仮設住宅で聞いた、住民どうしのコミュニケーションの課題が浮かびました。入居が抽選で決まっていたため、周りに知らない人たちがたくさんいるということを聞いていました。そこで私は、「車を通じて、人と人とがつながる仕組みを作ればいい」と考えました。これが「コミュニティ・カーシェアリング」。
仮設住宅単位や地域単位で車を共有(シェア)することによって、人と人とをつなげるという仕組みです。

この仕組みは様々なつながりを生み出しました。例えば 経済的に苦しいひとり暮らしのお年寄りがタクシーで病院にいけないという話を聞いたら、その方の外出支援をする方が現れました。カーシェアリングのことについて話し合う場を設けると、移動の課題だけではなく生活上の課題も出てきました。「ゴミが散らかっている」「近所の交流が少ない」という声が上がり、月一回のゴミ拾いやお茶を飲みながらの交流会が生まれました。住民の方々で役割分担を行い、鍵の管理方法や車の予約方法を決め、住民同士が一緒に買い物に出かけたり、日帰り旅行に行ったりするようにもなりました。
このような前例のない活動を続けていると次第に注目を集め、新聞やテレビで取り上げられるようになりました。企業からの車の寄付が増え、多くの方に車を届けられるようになりました。
石巻の経験を、全国へ
近年は毎年のように豪雨災害が起こっています。そこで災害が起こった時に車を被災地に集め、必要な人にすぐに届けられるような仕組みづくりにも力を入れてきました。自治体の方々と連携協定を結び、災害が起こると現地に駆け付け、被災者や支援団体の方々に車を無料で貸し出しています。
石巻にある車を現地に届けることもありますし、現地でも寄付を募集します。そして車の運搬に協力してくださるのは、全国にいらっしゃるボランティアの方々です。石巻から岡山、佐賀から石巻…ボランティアの方々に支えられ、遠距離であっても車を運ぶことができます。2018年7月の西日本豪雨では岡山県で、2019年10月の台風19号では宮城県丸森町などで活動していました。
コミュニティ・カーシェアリングについても岡山県や鳥取県など10か所以上に広がっています。私は石巻で活動を始めた当初から、石巻で生まれた仕組みを全国に広めたいと考えていました。それが、被災地や石巻にとって、一番価値があることだと考えていたからです。石巻の人達が自分たちの経験を語りながら、支援してもらった側から、支援する側に変化すること。それが最大の貢献になると思っていました。
今は佐賀県にも支部を作って活動しています。これからは、車を寄付する文化を作っていきたい。例えばいらなくなった車を売ったり、廃車にしたりしてしまうだけではなく、寄付するという選択肢を増やしていきたい。車を寄付するという新しい選択が当たり前になり、全国に根付いていってほしいと考えています。
高校生へのメッセージ
高校生のみなさんには「動く」ということを大事にしてほしいです。
いろんなものを読んだり、教えてもらったりするだけではなく、自分の中の感性で味わい、ことばにすることが大切です。動いてみるとそれができるようになってきます。ぜひいろいろ動いてやってみてほしい。頭の中で何かやるというよりも、試しに何かをやってみたり、アイディアを形にしたり、現場に行ってみたりするとか、動きながら探究するというのをやってみたらいいと思います。

※この記事は高校生向け探究教材「GATEWAY」の記事を一部編集し掲載しています。
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